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東京の灯

丸ノ内線御茶ノ水駅を出て、聖橋を左側に見ながら、神田川とJR中央線を渡る。いい感じの夕方だ。
じつはこの風景、地方出身の私にとって、どこまでも色濃く「東京」の象徴である。中央線、神田川、聖橋、湯島とたどってゆくと、それだけで胸がキュンキュン鳴る。
そういえば、小津の『東京物語』へのオマージュとしてつくられたホウ・シャオシェンの『珈琲時光』も、このあたりを舞台にした映画だった。ホウ・シャオシェンはどうしてこの場所を選んだのだろうか。訊いてみたいような気がする。

JR線に沿って水道橋方面へ数分歩き、ヘアピンカーブを左に曲がったところに、アテネフランセのピンクの建物がある。この建物にはエレベーターがない。教室から洩れてくるフランス語を耳にしながら、4階にある映画館まで薄暗い階段を上る。
行列に並び、切符を買って入った。スクリーンはミニシアター程度の大きさ。不思議なことに、中央からではなく端から席が埋まってゆく。前の席と段差がないので、中央付近に座ると、前席の人の頭がちょうどスクリーンの下部を隠してしまう、ということに、座ってから気づいた。だから、座席が端から埋まってゆくのか。この学習は次回に生かすことにしよう。

ボリス・バルネットの『諜報員』(1947年)を観る。ソ連の諜報員がナチスドイツの上層部に入り込み、機密情報にたどり着く話。暗転を利用した(映画の)話術がスピーディでテンポが抜群にいい。心の内面を描くことなく、極限の人間の行動を追う。「メロドラマ」の要素がない分、サスペンスのかかり方は強い。映画はドラマではなく、アクションだとつくづく思う。好きだなあ、こういう映画。

満足してアテネフランセを出て、今度はJR沿いの道ではなく、駿河台予備校の裏手の道を御茶ノ水駅に向かう。道に灯りが少なく、人通りも少なく、静かな暗い夜を、気持ちよく歩く。
大通りに出ると、突然灯りと街が出現した。都心にはこういう、置き去りにされたような静かなエリアが点々とあるのだろう。
私にとっての「東京」とは、きっとこういう場所のことなんだろうなあ、と、また少し胸がキュンと鳴った。
by shino_moon | 2009-07-24 22:09 | | Comments(0)


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