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意志の勝利(1934年)

ひょんなことで、渋谷で上映中の『意志の勝利』を観にゆく。

『意志の勝利』は、1934年にニュルンベルクで開かれたナチスの全国党大会の記録映画。ヒットラーからの熱心な依頼にこたえてレニ・リーフェンシュタールが撮り下ろしたドキュメンタリーだ。

ほぼ全編、行進と演説が延々と続くばかりなのだけれど、これが、2時間弱を退屈させない。行進は俯瞰あるいはロングで、人物はアップで、演説のアップは少し仰角ぎみに。夜の集会での炎の美しさや、モノクロの陰影濃き人影、肩の高さで右手を水平に突き出す、あのおなじみのポーズをとるヒットラー、そのぼやけた指先の向こうを歩く親衛隊の遠近感とか、無数の党旗が前進する整然とした俯瞰映像とか、撮影の美しさと編集のムダのなさは、これはもう、どうしようもなく脳裏に残る。

大会閉会時のヒットラーの演説が凄かった。始まりは低くゆっくりと、次第に演説は熱を帯び、クライマックスを迎えるに至って、髪を振り乱し拳を振りかざした、カルトで熱狂的な演説者と化す。チャップリンのパロディやマンガ、伝記映画でしか知らなかったあのシーンは、それらの後発作品よりもずっと、はるかに演劇性を帯びているのだった。

リーフェンシュタールの映像はたしかに美しいけれど、カンペキ主義者の映像、という感じがする。曖昧なものが映り込むことを嫌う感じ、なんというか……システマティックなのだ。それゆえ、スタイリッシュではある。

美しくスタイリッシュな映像というのが、プロパガンダ映画とあまりにもたやすく結びつき、最大の効果をあげてしまうのだということを、目の前で体験した。私たちはナチスのしでかしたことを充分に承知しながらこの映画を観ているから、そこで繰り広げられていることに感化されることはない。彼らが演説で語っていることも、紋切り型で強権的なので、伝わっては来ない。
けれども、その時代に生き、ヒットラーの指導性を信じていた人々がこれを観たら、影響は多大だったろう。ドイツでは現在も、この映画の上映が禁止されているという。

映像の力は怖ろしい、ということを、私たちは、その映像が歴史になってから知る。けれども、少なくとも、映像とはそういうものなのだ、という危機感を持つことはできる。
この映画は、そのためにあるのだ、と思いたい。

監督:レニ・リーフェンシュタール
by shino_moon | 2009-08-30 00:36 | 映画(ア行) | Comments(0)


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