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リミッツ・オブ・コントロール(2009年)

いや、これはすごい。なにを書いたらいいのか、よく分からない。ともかく、ぜひ観てください、素晴らしい映画です、としか書けない。

『ブロークン・フラワーズ』でジャームッシュの成熟を感じたのが嘘のような、あれも良かったんだけれど、それとはまったく違うアバンギャルド、というか。

むずかしい映画ではない、と思う。
「自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ」という任務を受けて遂行に向かう主人公。彼が旅の途上で会う仲間のセリフですべてが語られ、その通りにことが運んでゆく。というよりは、言葉が先にあって、言葉に引っぱられるように、主人公が動いてゆくようにも見える。

が、仲間たちの話す言葉はたんなる情報ではなくて、詩のようだったり、記号のようだったり、文字通り暗号でもあり、さまざまな質感をもって主人公の行く先に、霧のようにうっすらと広がり立ちこめて、暗殺の道行きのはずなのだけれど、だんだん迷宮を経巡るような気分になり、けれども、巡っても巡っても空洞のようで、なにかが解決されたり分かったりするということがない。
つまりそこには言葉がありながら、それによってなにかが見えてくる、という訳ではないのだ。

さまざまな断片が集まって、その乱反射によってつくられてゆく世界、とでも言えばいいのか。言ってしまうと、これもまた違うような気持ちになる。

主人公を演じるイザック・ド・バンコレをはじめ、キャストの面々がめっちゃクールです。「クール」って、きっとこういうときに使う言葉だと思う。工藤夕貴も、ナチュラルに謎めいていて、いい。

あ、それと、この映画、カメラがクリストファー・ドイルなのだ。王家衛とコンビを組んでいた頃のように華麗ではないのがかえって良くて、陰影深い絵づくり。よく見るとさりげなく凝っている、というのが、なんとも贅沢だ。

監督:ジム・ジャームッシュ
撮影:クリストファー・ドイル
出演:イザック・ド・バンコレ、ジャン・フランソワ・ステヴナン、アレックス・デスカル、ルイス・トサル、パス・デ・ラ・ウエルタ、ティルダ・スウィントン、ガエル・ガルシア・ベルナル、ヒアム・アッバス、
工藤夕貴、ビル・マーレイ、ジョン・ハート
by shino_moon | 2009-10-14 23:10 | 映画(ラ行) | Comments(0)


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