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火祭いま

3月20日(土)。
午前11時、姫路駅に着く。お城に向かって歩きながらNちゃんに電話をしたところ、朝一番で姫路城に登城し、天守閣のてっぺんまで昇って、すでに下りてきている、という。
「すごくよかったです、キョウコさん犬山城の次によかったです」
あ、そう。それはなんともまた、ツウなお褒めの言葉。で、いまどこにいるの?「動物園です。お城を出たところにあったので」
あははは、そりゃいいや。この動物園は、子どもの頃、よく父が連れて行ってくれた。父と一緒に動物園に行ってキリンを見て、園内でソフトクリームを買ってもらい、帰りにデパートのレストランでお子様ランチを食べさせてもらうのが、休日の楽しみだった。なんと標準的な、昭和の休日。ところで、何が居る?「えぞひぐまがいます」ああ、いるだろうね。熊が好きなんだ。「熊、大きかったです」

などと携帯で話をしているうちに、姫路城が近づいてきた。姫路城はただいま、50年ぶりの大修理中なのである。4月12日からは天守閣の修理が開始されるため、被いで覆われたうえ、中に入れなくなる、というので、ものすごい数の観光客が押し寄せている、らしい。と漏れ聞いたので、Nちゃんに朝早く登城することを勧め、私自身は朝早く起きることを放棄して見るのをやめた、という訳だ。

お城の入り口の大手門前で、Nちゃんと落ち合った。小さな土産物店や商店が密集していたお城の前面のエリアは古い建物が取り壊されて、いかにもでこぎれいな土産物店が数軒建っているようなすっきりとした公園になっていた。世界遺産に登録された頃からこのあたりは大きく様変わりしはじめて、今では、昔の面影はほとんどない。
ランチにはまだ少し早いけど、さて、どうする?と訊くと、Nちゃんは「姫路文学館」というのに行ってみたい、という。おお、いいね。あそこは、小さい頃に住んでいた父の会社の社宅があったご町内で、ま、庭のようなものだった。文学館になっているところは、昔は「市民寮」という結婚式場で、もちろん中には入れなかったけれど、前庭あたりでよく遊んだ。

お城から文学館までは、ゆっくり歩いても15分ほど。城壁の途切れたあたりから路地に入り、かつての歩き慣れた道を行く。このあたりは小学校への通学路だったのだけれど、いまは石畳の散策路になっている。観光地っぽくて、ちょっと面映ゆい。古い家が、けっこう残っている。

途中、友だちがこのあたりの寺の娘だったことを思いだし、立ち寄ってみた。もちろん、もうそこに友だちはいない、はずだ。もっとも、小学校卒業以来会っていない彼女といま顔を合わせたとしても、お互いに何を話していいのか分からないと思う。
お寺は今でもあった。昔のまま。この寺の庫裏で、よく遊ばせてもらった。確か、メキシコ五輪のあった年のことで、メキシコには今でもミイラがあちこちに残っているらしい、というような話をした記憶がある。変なことほど、忘れないで憶えている。
老婦人が寺の前の道を箒できれいに掃いておられた。この人には見覚えがある。たぶん、友だちのお母さんだ。Nちゃんが「声、かけないんですか?」と言う。うん、思い出はそのままでとっておこう。
「こんにちは」と挨拶をして、通り過ぎた。

姫路文学館は行ったこともあるし、特に期待していなかったのだけれど、たまたま「収蔵品展 司馬遼太郎と俳人赤尾兜子の友情」というのをやっていて、これがなかなか面白かった。
遼太郎と兜子は大阪外国語学校時代の同期生で、のち、遼太郎が『峠』を毎日新聞に連載時、その担当記者として原稿を取りに通ったのが兜子だという。一級上には、これものちに作家となる陳舜臣がいた。中国を題材にした陳舜臣の小説は好きで、彼の生まれ故郷である神戸を舞台にしている懐かしさもあり、30代の頃よく読んだのだ。

この3人に、こんなところで会えるとは思わなかった。兜子が姫路の人だということは知っていたけれど、その俳句は難解で、いまだにあまりなじめない。でも、司馬遼太郎と陳舜臣の語るデリケートな赤尾兜子像に触れるうち、兜子の句をまた読んでみようか、という気になってきた。
火祭いま_d0020480_18542050.jpg

                      火祭いま文鎮となる竜の裔  赤尾兜子

帰宅したら、うちに1冊だけある彼の句集『虚像』を、再読してみよう。

文学館を出たところに、「望景亭」という日本家屋があって、無料公開されていたので、入ってみた。これが、あの「市民寮」の一部を残して保存したものだそうで、立派な茶室と広い二間続きの和室は貸出可能だという。縁側から姫路城が望めて景観もよく、姫路吟行なんていうのがいつかあったら、句会はここだろうな、やっぱり。

文学館を出て市街に戻り、Nちゃんとお昼を食べたあと、彼女はその足で香川県の琴平へ出発。じつは明日、その琴平で、私たちはまたしても落ち合う予定なのである。
by shino_moon | 2010-03-23 19:09 | | Comments(2)
Commented by のよ at 2010-03-23 23:33 x
上質の紀行文を読んでいるみたいで、とても心地よいっすよ~。
お友達のお母さんに声かけなくて、良かったんだよね。思い出の風船が、パチンって割れちゃうかもしれないもんね…。
琴平編も楽しみにしてるっす。
Commented by shino_moon at 2010-03-24 20:54
のさん、書き込みありがとう~!
お母さんに声をかけなかったのは、40年近くぶりにお見かけしたので、100パーセントその方に間違いないという自信がなかったことと、むこうもおそらく、憶えておられないだろう、と思ったから。。。
琴平に行った日は朝から黄砂が降って、風も強くて、大変な日だったけど、いろいろ面白かったよ(^O^)/


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