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オーギュスタン 恋々風塵(1999年)

 最初は隣の映画館でやっている『エレニの旅』を観ようと思って家を出たのだけれど、この映画のポスターのマギー・チャンの清楚な姿を見て、映画館でふらっと気が変わってしまった。その場で観る映画が変わったりするのって、「とにかく、映画ならなんでもこい」っていう人間にしか起こり得ない現象でしょうか。

 エキストラをしているオーギュスタン(ジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン)は、ある日、カンフースターになる決心して、パリのチャイナタウンに移り住み、中国民芸店に職を得て、カンフー道場に通いはじめる。しかし彼は、どうしても他人の体に接触できないという精神的な病のため、相手に技をかけることができない。見かねた道場の講師は、治療のため、オーギュスタンにとある鍼灸院を紹介する。そこには、わけあって中国を離れ、パリにやってきた美しい鍼灸師・リン(マギー・チャン)がいた。彼は一目で彼女に恋をして……というお話。

 パリの中国人、という設定がなかなかいい。そして、ひょんなことから異邦人のなかにひとり紛れ込んでしまう主人公が面白い。
 こういう人って、ときどきいる。その人だけ、そこで異質な感じのする人。周囲になかなかなじめず、まったく自分とは生活圏を異にする人々のなかで、自分の居場所を見つけてしまうような人。
 こういう人物を、しかも人にはなかなか言えないような弱点をもっている人物を、飄々とユーモラスに描けるところが、フランス映画のふところの深さか、とも思う。
 関わりつつ、惹かれつつ、一歩手前ですれ違ってしまう人々の言動のありようも、ビターだけれどなんともいえない余韻があって、後味がいい。

 それにしても、チャイナタウンと、リンの住む郊外のアパートメントでのシーンばかりが印象的で、パリの風景がまるで脳裏に残らない映画だ。というか、監督にとっては日常であるパリより、チャイナタウンの非日常の方が興味深かったのかもしれない。
 中国でのロケに胡洞(フートン)が使われていたのも、なんとも面白い。胡洞とは、中庭を数軒で共有する形式の集合住宅で、ほとんどが19世紀以前のもの。現在、北京では特別地区などをもうけて保存している。なので、中国映画で胡洞を見かけることはあまりない。それが、生活の風景ではないからだ。これも、フランス人ならではの興味の持ち方だろう。
 どこまでも「異邦」の視点が貫かれていて、見終わったあと、ちょっとふわっとした感触が残るのもいい。

 マギー・チャンは、開襟シャツ姿やカーディガン姿がちょっと寂しげで、とにかく地味。でもあれが、パリの中国人の実像に近いのだろう。『花様年華』のマギーとは別人のようだ。ウォン・カーウァイは好きではないが、マギーを世界一美しく撮るのは、やっぱり彼だなあ。
 話はもっと逸れるけど、マギーはフランス人監督のオリヴィエ・アサイアスと別れてしまったようだが、マギー主役で撮った新作『クリーン』が観たい。アサイアスの『デーモンラヴァー』はつい最近公開されたのを見逃してしまった。こんどは見逃さないので、ぜひ劇場公開してほしい。

監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン、マギー・チャン、ダリー・コール、
ベルナール・カンパン、ファニー・アルダン、アンドレ・デュソリエ
by shino_moon | 2005-07-02 00:50 | 映画(ア行) | Comments(2)
Commented by CaeRu_noix at 2005-07-11 22:42
こんばんは。7/1に観ましたー。
こんなに地味なマギー・チャンは久しぶりに見ましたよね。
それでも、やっぱりウマイです。せつない表情がすばらしかった。
美しいマギーもまた観たいですねー。
Commented by shino_moon at 2005-07-12 14:16
CaeRu_noixさま、はじめまして。
TBありがとうございました。こちらからもさせていただきました。
切ない表情でフランス語を話すマギー、素敵でしたね。


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