ウィンターボトムのSFかあ。私、これは間違いなく好きだろうなあ、と思いつつDVDを借りた。
そうしたら、冒頭からいきなり上海の街だもの。地下鉄の車両のなかを歩いてくるサマンサ・モートン。小さなセットとありものの風景だけで、フィルムに未来都市――「いつか、どこか」――を映し込んでしまう。このシーンですでに予感される「あやうさ」がある。
好きだなあ。
この時代、世界は高度に管理された都市部=「なか」と、環境破壊で砂漠化した地帯=「そと」に分裂している。都市に住むことのできる人間は選抜され、都市に入るには許可証が必要であり、そこではさまざまなウィルスによって人間は感情をコントロールでき、しかし、都市に居住するために害をなす記憶は抜き取られてしまう。
一方、「なか」にとどまらない人間、「そと」に放擲される人間の記憶は、放置される。なぜなら、「そと」の人間の記憶など、世界の中心=「なか」にとっては存在しないに等しいものだから、とサマンサ・モートンのモノローグが聞こえ、放擲されたサマンサ・モートンが砂漠を彷徨するシーンにいたって、この物語が彼女の「記憶」であったことが分かる。
二つの世界のボーダーに「記憶」を用いるところ、中心ではなく辺縁に最後の視点がおかれるところなんか、やっぱりハリウッド製のSFとはひと味違う。
CGとは無縁だが、上海、ドバイ、インドと多方面にロケを敢行している贅沢な映画。レンズにフィルターをかけて色味にこだわるウィンターボトム独特の画面が美しい。
細かい設定が充分生かし切れているとはいえないけれど、私はこういう、ピカピカしていない、レトロSFっぽい映画にめっぽう弱い。できれば、P・K・ディックの『ユービック』あたりを、ぜひウィンターボトムに映画化していただきたい。
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ティム・ロビンス、サマンサ・モートン、ジャンヌ・バリバール、オム・プリ