これはすばらしい。
エピソードをひとつひとつ思い返すと、強烈であざとくて残酷(「春」のエピソードなんて、子役のトラウマにならないかと、ちょっと心配になったほど。子どもはたしかに残酷な遊びをするけれど、おのれの残酷さをああいう形で悟らされることはさらに残酷かと……)なのだけど、全体としてみると、その印象はさらに大きななにかにとけ込んでゆく。それは、「四季の移り変わりを、人生の行路や喜怒哀楽になぞらえる」といったようなありきたりの構図で語ることなんてとてもできないなにか、なのだけれど、うまく言えない。
展開ごとに意表を突かれ、そのたびに、なんとも名状しがたい映画的高揚感みたいなものに晒され、複雑なのにさわやかとしかいいようのないような後味が残る。
老僧が猫の尻尾で床に般若心経を書いたり、女の顔に輪郭が浮き出るほどピッタリとスカーフが巻き付いていたり、その女が氷の割れ目にずぼっと落ち込んで命をおとしたり、というあたりの奇妙さったら、なんなのだろう、いったい。
リュックの口から仏像の顔がちょこんと出ていたり、後のシーンではそれが猫の顔だったり、といったモチーフの繰り返し(そういえば、蛇のモチーフも何度も出てきたなあ)も、なんとも変な味わいがある。
キム・ギドクは、ちょっと目が離せない監督になってしまった。『悪い男』にも度肝を抜かれたが、それ以外の映画も、これはもう、なんとかして観るしかない。
監督/脚本:キム・ギドク
出演:オ・ヨンス、キム・ジョンホ、ソ・ジェギョン、キム・ヨンミン、ハ・ヨジン、キム・ギドク