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エロス+虐殺(1969年)

吉田喜重監督作品。ATG配給。タイトルがもう(笑)。

神近市子が伊藤野枝に嫉妬して大杉栄を刺した日蔭茶屋事件、並びに大杉と野枝、大杉の甥が惨殺された甘粕事件をモチーフにしたエピソードと、撮影当時の若者たちの行動や会話で構成したエピソードをモンタージュし、ところどころで、現代の女子大生が伊藤野枝にインタビューするシーンが入るという、かなり思い切った構成をもつ作品。

ではあるのだが、今観るのは相当にキビシイ。この当時(1969年)における「現代」の若者のセリフが、あまりにも高踏的、抽象的で、恥ずかしくて聞くに堪えないのだ。セリフではなくて、もはやモノローグ。「誰に向かってしゃべってんの?」状態である。でも、公開当時はそういうのがモダンだったのだろう。たぶん。この若者のひとりが原田大二郎。確かに二枚目なんだけどね。

大杉、野枝の大正時代篇の方は、現代篇に比べるといちおう物語になってはいたが、全体的に力んだセリフ回しは変わらない。伊藤野枝に岡田茉莉子、大杉栄に細川俊之、辻潤に高橋悦史、正岡逸子(神近市子)に楠侑子。基本的に、岡田茉莉子以外はすべて「文学座」の俳優で、最初から舞台的なつくりが目指されていたらしい。セリフだけではなく、人物像もかなり取り澄ましてつくられていて、細川俊之の大杉栄なんかは「デフォルメ」といってもいいのではなかろうか。それはそれで楽しめるんですけどね。

でも、大杉の刺されるシーンが3回も繰り返されたり、この事件に「女性の自立」を透かし見せたりすることが、今となっては古くささを強調してしまった感も。

ということで、映画としてはキビシイです。

この映画の制作年を知って思い出したことがひとつ。

たしかに1969年か70年だったと思うのだが、朝日新聞に「青鞜の女たち」(「元始、女性は太陽であった」だったかもしれない)という特集記事が何回かに渡って掲載された。タイトルはうろ覚えだから違っているかもしれない。この記事を、私は読んだのだ。読んで、感銘を受けた。小学校6年生だった。

今思えば、『エロス+虐殺』の公開を受けて、あるいはそういう流れがあっての、あの記事だったのではないだろうか。

そして、そのなかでも最も印象的だったのが伊藤野枝である。小学校6年生で私は伊藤野枝を知り、その行動力と夭折に憧れたのだ。幼稚な田舎の少女にとっては、平塚らいてうや神近市子のようなモダンな知性よりも、野枝の体当たり的な人生の方が輝いて見えた。野枝の一ファンとして、岩崎呉夫の『炎の女 伊藤野枝伝』や瀬戸内晴美の『美は乱調にあり』、ずっと後年に刊行された松下竜一の『ルイズ 父に貰いし名は』などを読んだが、青鞜の思想や野枝自身の著作の方にさっぱり興味が向かなかったのは、ひとえに私が「物語好き」な人間だったからである。

で、かつての一ファンからすると、岡田茉莉子の野枝は知的で、クールに過ぎる。私のイメージでは、『存在の耐えられない軽さ』(1988年)でいうとレナ・オリンではなくてジュリエット・ビノシュなのだ。ちなみに、この映画での三角関係は、当初から大杉、野枝、市子の三角関係を彷彿とさせた。ダニエル・デイ=ルイスが大杉栄、ジュリエット・ビノシュが伊藤野枝、レナ・オリンが神近市子。ほんとうに似ている。

日本の女優で言うと、野枝は大竹しのぶのイメージだとずっと思っていたが、最近になってWikipediaで野枝の写真を見てみたら、思っていたイメージと少し違った。南果歩か竹内結子、いや、綾瀬はるかでどうだろうか。小悪魔も体当たりも勝ち気もイケそうだ。綾瀬はるかの伊藤野枝なら、見てみたい。

話、逸れすぎ(笑)。


監督:吉田喜重
出演:岡田茉莉子、細川俊之、高橋悦史、楠侑子、八木昌子、原田大二郎、伊井利子、
金内喜久夫 ほか
by shino_moon | 2013-10-18 18:35 | 映画(ア行) | Comments(2)
Commented by のよ at 2013-10-20 07:27 x
吉田喜重は、『嵐が丘』しか見たことがないのだけど、本家本元があるだけにキビシクて、日本の風土、日本人の姿に、嵐が丘は似合わないと、それだけしか印象に残らなかったのでした^_^; でもしのさんの2作のレビューを読んで、この2作は観たいなあと思いました!
『そして父になる』についても、こちらにちょこっと書くね。
福山は、本当によかった! 是枝演出のおかげと、天性の佇まいだね。いや、福山が生きてきて自ら培った品性かな。ちょっと屈折した品性。無傷のエリートではない。
それからリリーフランキー…。まったくこのおっさんは!wikiを見て、あっけにとられる才能の宝庫…。
Commented by shino_moon at 2013-10-20 15:49
のよさん

『嵐が丘』はよく覚えてないんだけど、出演者がみんな力んでいて不自然だったなあ、という印象がしかない。
『エロス+虐殺』は、ちゃんとしたストーリーがないし、けっこうしんどい。いま観ると時代遅れは否めないよ(^^;)
『秋津温泉』はメロドラマだけど、とにかく岡田茉莉子が可愛い(=^・^=)

福山は良かったね。
>ちょっと屈折した品性。無傷のエリートではない。
そうそう。彼はエリートではないけど大成功者。でも、九州から出て来て、今に至るまでには苦労もしてるよね。
苦労が顔に出ないタイプだけど、陰影はある。それが今回はドンピシャにはまりましたね!

リリー・フランキーは驚くべきマルチだよねえ(@_@;)
今上映中の『凶悪』にも出ているんだけど、こちらは極悪人の役らしい。これ、きっとすごく似合っているという気がする。
山田孝之も出ているし、見に行こうかどうしようかと迷っています。

ところで、彼のwikiを観ていて、『ぐるりのこと。』を見ていないことに気づいた!
ぜひDVDで見たいと思います。(=^・^=)


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