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水の男

 黒澤の『酔いどれ天使』がハリウッドでリメイクされるという。監督がマーティン・スコセッシ、三船敏郎の演じた主人公にディカプリオ。またこのコンビ?
 このコンビで『ギャング・オブ・ニューヨーク』『アビエイター』とやって、じつはもうひとつ、すでにクランクインしている映画がある。香港の『インファナル・アフェア』をリメイクした『ザ・ディパーティド』だ(それにしても、英語をそのままカタカナにする邦題が、昨今は多すぎる。オバさんには覚えきれない)。ということは、4作連続でコンビを組むことになる。
 香港のオリジナル版はほんとうによくできていて、「よくできていること」に感動するという変な感動のしかたをしたものである。香港映画ファンの業だろうか? そういえば、先日、テレビ東京でやっていたんですね。
 それにしても、スコセッシにディカプリオは、黒澤に三船、みたいな関係になるのだろうか。私には、どうしても、ディカプリオが三船敏郎のような「男くさい世界」の似合うスターだとは思えないのだけれど。

 『タイタニック』は、水と鉄の激しいせめぎ合いの物語だった。巨大な鉄の箱を浸食し、呑み込んでいく水のかたまり。一組の男女、ジャックとローズが、その鉄の箱の最下層部から上へ上へと逃げてゆく(これは、ジャックが生きている場所から、ローズが生きている場所への移動でもある)。水に追われる二人の行く手をはばむのは、堅牢な鉄の扉だったり、格子状の鉄の網だったり。

 面白かったのは、ジャックとローズの悲恋が、「結局水へと還ってゆく男」と「鉄とともに生還する女」として描かれていたことだ。ジャックは海と同化し、ローズは新天地へ渡って、こののち一世紀近くを生きる。ふたりが、階級制度によって分かたれた、というよりも、生まれながらに身に備わったなにかによって分かたれた、というふうに見えたのは、最後に力尽きたジャック=ディカプリオが海底に沈んでゆくときの相貌が、あまりにも美しかったからかもしれない。つまり、彼は、帰っていったのだと思うのだ。

 女=鉄のイメージは、ジェイムズ・キャメロンが『エイリアン2』のシガニー・ウィーバーや『ターミネーター』のリンダ・ハミルトンでも繰り返し描いていることで、彼の好むところなのだということがよーく分かる。『タイタニック』のケイト・ウィンスレットもまた〈鉄の女〉をよく演じたと思うが、その後の出演作を見ると、彼女には、意外に肉体から発する匂いがある。イギリスの田舎のちょっと土っぽい匂い、いまのハリウッド女優たちがもっていない匂いだ。好悪は分かれるかもしれないけれど、いい女優だと思う。

 と、長々と書いたきっかけはなんだったかというと、つまり、『タイタニック』のディカプリオは、大変な当たり役だったということだ。彼はつくづく、三船敏郎ではなく、〈水の男〉なのである。
 『ザ・ディパーティド』(ええい、めんどくさい。公開のときはなにかべつのタイトルを付けてくれ)で彼がやるのはトニー・レオン=囮捜査官の役だそうだが、あの痛々しさを再現するのはムリとしても、ぜひ〈水の男〉っぽくやっちくれ。『酔いどれ天使』もね。
by shino_moon | 2005-04-17 14:35 | 映画(雑) | Comments(0)


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