サントリー美術館で「広重ビビッド 原安三郎コレクション」。
最近、東京の風景にわりに興味が向いていて(いま読んでいるのは、荒俣宏の『江戸の幽明 東京境界めぐり』という本)、この広重展でも〈名所江戸百景〉が見られるというので、行ってきた。
摺り方によって全然違う作品になるというところが版画の面白さ。このコレクションは「初摺」、その版で初めて摺った作品で、色や摺り方に広重の意向が濃く反映されているそうだ。何回も摺って色を重ねているので色味が深く、ぼかしの技術も存分に駆使されていて本当に美しく、見応えがあった。なかに1枚だけ、「初摺」と並んで「後摺」(摺りの手順を簡略化して摺ったもの)が並べてあったのだけれど、いやもう、色も絵の奥行きも全然違う。「後摺」は人気作を大量に摺ったものだから、たぶん「絵はがき」くらいの感覚なのだろう。
〈名所江戸百景〉以外にも、全国津々浦々の名所を描いた〈六十余州名所図会〉がフルセットで展示されていた。〈江戸百景〉は江戸暮らしの広重が実際見た風景をアレンジしたと考えられるけれど、〈六十余州〉の方はすべての場所に足を運んだとはとうてい考えられず、『山水奇観』という絵付きの紀行本などを参考にして描いたという。写真のない時代、実際見てもいない風景を描いたのだと思うと、くらくらする。
写真の絵はがきは「永代橋佃しま」と「王子装束ゑの木大晦日の狐火」。
青色の美しさ、「狐火」の絵の怪異な空気感がすごかったのだけれど、絵はがきの写真ではとても再現できない。