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父の入院

父が再手術になり、その日の夜、付き添って病院に泊まった。大病院のほとんどは完全看護で、付き添いを必要としないところが多いので、病院にお願いして付き添わせてもらった。父は質問の多い患者なのだそうで、前回の入院時、看護師さんの仕事を増やしてしまったらしい。とはいえ、いまさら父の性格を矯正することもできないので、私はいわば防波堤である。

質問のほとんどはたわいないことで、私の答えで父は納得する。だから、そんなに大変でもない。ベッドを入れるスペースがなく、ソファで眠ることを心配してくれるが、珍しい体験だと思えばかえって楽しい。1日だけだしね。患者の容態は夜勤の看護師さんが定期的に見回って確認してくれるし、父の質問がない限り、私は何もすることがない。

小津夜景さんの『フラワーズ・カンフー』を持っていったので、父のベッドの脇でそれを読む。句集というよりは詩文集と言った方がいいかもしれないけれど、読むほどに、本の種類なんてどうでもいいじゃない、と思えてくる。

愉悦と癒やしが交互に押し寄せてくる、といえば良いのか。「癒やし」は「涼しさ」のようなものだ。風が吹いている。自由に振る舞いながら言葉が文章になって繋がってゆく。自由というのは、ユーモアのことだ。

韻文と俳句で構成された「出アバラヤ記」は、最初、律儀に読んでいたが、私の脳みそでは、俳句を読むたびに文章が霧散してしまうので、もう一度頭から文章だけを読み、あとから俳句だけを読んでみた。面白くて、「うふふふふ」と思わず笑いが漏れた。夜景さんが意図した読み方ではないかもしれないけれど、こんな風に読んでも、この本は許してくれるような気がする。

消灯時間が来たので、ソファに敷いた蒲団に潜り込んだ。眠ったと思うと目が覚め、夜勤の看護師さんが点滴を取り替えに入ってきてはまた目が覚め、また眠り、を繰り返しているうちに夜が明けた。

長き夜のところどころを眠りけり   杏太郎

前日に手術を受けた父は、朝からすごく元気だ。くじけることのない人だなあ、と思うと、一昨日、お隣さんからいただいた「食べられない観賞用の南瓜」のユーモラスな形が思い浮かんで、また笑いそうになった。

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by shino_moon | 2016-10-29 17:42 | 俳句 | Comments(0)


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