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牯嶺街少年殺人事件(1991年)

やっと観た。感無量というほかない。

スクリーンで見るエドワード・ヤンの闇の美しさ、陽光のまぶしさ。20年前にビデオで見たテレビサイズの闇は黒くつぶれていて、シーンによっては何をしているのか分からないこともあった。でもスクリーンでは闇の色合いやうごめく気配が見え、闇を照らす懐中電灯の光の鋭さも淡さも見分けられる。もうそれだけでも、映画館で観る意味はある。

覚えているシーンもあったが、今回気がついたこともたくさんあった。例えば、ふたりで対話するシーンのいくつかは、カメラはひとりの姿しか捉えていなくて、もうひとりは声しか聞こえない。見えないということが観客にもたらす想像力。泥酔して水たまりに落ちた食料品店の親父を小四が助けるシーンもすごくいいし、撮影所のシーンとか、ちゃんと覚えていなかったけれど、重要なシーンだったのだなあ。主人公の小四(チャン・チェン)の家の中をカメラがパンした先にある扉から姉が入ってくるシーンとか、もう良すぎて泣きそうだ。

なにかが収斂して殺人事件に至るのではなく、その時代の台湾に生きている家族、友人、階級、出自、それを含んでいる世界を、ディテールの積み重ねで遠心的に描いてゆく。その分厚さゆえ、ある閉鎖された時代や国についての映画ではなく、普遍的な物語になっている。

20年前に胸に来たセリフは、小明(リサ・ヤン)のラストの「私は決して変わらない、この世界のように」だったけれど、今回は、小馬(タン・チーガン)が小四について言った「あいつだけが友だちだった」にやられた。小明の言葉が小四を引き裂いたように、小馬の友情もまた小四には永遠に伝わらない。なんだろう、この切なさは。

プレスリーにかぶれている小猫王(ワン・チーザン)や飛機(クー・ユールン)など、少年がすごくいい映画なのだが、やっぱりチャン・チェン、リサ・ヤンが素晴らしすぎる。

スクリーンで観られる機会はもうないかもしれないと思うと、もう1回映画館で観たい、という衝動にかられる。有楽町では来週まで。もう1回行くかもしれない。


監督:エドワード・ヤン
出演:チャン・チェン、リサ・ヤン、ワン・チーザン、クー・ユールン、タン・チーガン、チャン・クオチュー、エレイン・ジン、チャン・ハン ほか
by shino_moon | 2017-04-05 21:00 | 映画(カ行) | Comments(0)


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