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ほとりの朔子(2013年)

『淵に立つ』の深田晃司が監督した2013年の作品。DVDで鑑賞。

「淵」とか「ほとり」とか水の境界域で主人公の居場所を言い表すタイトルは、若干わかり易すぎると思わないではないけれど、両方を観てみたら、ほとりのつもりが淵だったり、その逆だったりすることはあり得ることだよね、と思えてくるところが、監督の意図ではないかもしれないけれど、面白い。

主人公の朔子(二階堂ふみ)は大学受験に失敗し、失意脱力している。勉強する気にもなれず、ふわふわした毎日を過ごしていた朔子は、叔母の海希江(鶴田真由)とともに、もうひとりの伯母の海辺の家で一夏を過ごすことになった。そこには海希江の幼なじみの兎吉(古館寬治)やその娘の辰子(杉野希妃)、兎吉の甥の孝史(太賀)がいて、みながそれぞれに過去や事情を抱えて暮らしていた。さらに海希江の恋人の西田がやってきて、複雑とまでは言えないけれど、微妙にややこしい人間関係が繰り広げられることになる。

主人公が体験するある街の一夏のできごとが描かれていて、それはとくに珍しいものではないのだけれど、朔子と周囲の人物との距離感が絶妙だ。朔子の目を通して見られる周囲の風景は、朔子の失意を引きずらず、朔子の気分に染まらない。なぜなら、周囲の人々の抱える過去はそれぞれに複雑で、それに比べると朔子の失意はいかにも軽く、その傷は自分で修復することができるからだ。やがて朔子はかさぶたを剥がしながら、徐々に観察者になってゆく。

大人たちは自分語りをせず、朔子を通して少しずつ過去を開かれてゆく。その描かれ方によって、朔子がその人物をどう見ているのかが分かる。それは一種の批評性と言えなくもないが、いまだ深刻さを知らない朔子のフィルターを経ることで、大人たちに滑稽味が加わるから、どこか柔らかくのどかだ。それがいい。

が、年下の高校中退生・孝史に対してだけは、少し違う。孝史の抱える事情は過去のものではなく今現在のもので、しかも、なかなかに重い。朔子が孝史に惹かれてゆくのは、年齢の近さもあるけれどその「生々しさ」なわけで、孝史の前でだけ見せる朔子の「揺らぎ」が、実に魅力的だ。

朔子の二階堂ふみの佇まいがほんとうに素晴らしいのだが、それ以上に孝史の太賀が素晴らしい。孝史の抱える事情の複雑さと、若者らしい単純さ。人生経験を経る前の若者の迷いや振る舞いを、立ち姿と表情だけで表現する。ことに、朔子と一緒に家出した夜、バーで見せる表情には、一瞬「汀」に立つ若者の凄みを感じた。ああいう表情を撮るのが、深田監督はものすごく上手い。

『淵に立つ』にも出ていたが、しばらく太賀には注目してゆきたい。


監督:深田晃司
出演:二階堂ふみ、鶴田真由、古館寬治、太賀、杉野希妃、大竹直 ほか
by shino_moon | 2017-05-14 11:47 | 映画(ハ行) | Comments(0)


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