人気ブログランキング | 話題のタグを見る

阿修羅のごとく(2003年)

 向田邦子つながり、ということで、この映画。

 面白い。めちゃくちゃ面白い。 
 出てくる役者、出てくる役者が、ことごとく巧い。ことに、板東三津五郎をめぐる桃井かおりと大竹しのぶの妻妾対決のシーンは絶品。こういう修羅場のセリフをオブラートに包んで書かせると向田邦子はうまかったが、今回、映画用に脚色した筒井ともみのホンも負けていないし、そのセリフを肉体に乗せてしゃべるふたりの女優には凄みがある。ついでに、三津五郎の「とことんいいかげんな男」も、まるでそれが地であるかのように自然だ。仲代達矢の父親の、ぼーっと立っているだけに見えて、じつに複雑な老いの風景もすばらしい。
 黒木瞳も深津絵里も、小林薫も中村獅童も、それぞれの持ち味をめいっぱい発揮しているし、木村佳乃なんて、これまでいいと思ったことなんか一度もないのに、この映画では別人かと思うぐらい冴えている。芸達者揃いの中で、深田恭子だけがダントツにダイコンなのだが、それすらも愛嬌と思えるぐらいに面白い。
 近頃のテレビドラマのように「俳優のキャラクター」で見せるのではなく、ニュアンス豊かな役者の芝居で見せる。そして、巧い芝居には〈軽み〉がある。映画はこれでなくちゃ。

 森田芳光は最近、『刑法第39条』だの『黒い家』だの『模倣犯』だの、事件性の強い題材を、ヘンに映像をいじくり回してつくることが多く、なんだか自家中毒っぽくてどうにもならなかったのだけれど、こういう日常的な題材をキャストこだわってつくったら、なあんだ、ちゃんとベテラン監督らしく撮れるんじゃない。
 でも、もしかしたら、あのシナリオで、ここまでキャストを揃えたら、だれが監督をやってもこうなるだろうか。
 いや、そんなことはないと思う。
 例えば、向田邦子の死後、久世光彦が長年やっていたお正月の「向田原作からイメージして作られた二時間ドラマ」では、同じような題材を、ひたひたと迫るように、深い淵のなかにいるように撮った。
 でも、森田芳光は、男のものの見方、女の描き方がカラッとしていて、オリジナルの向田邦子の世界に近い。いや、オリジナルよりさらにさらっとして現代的だ。好き好きだろうが、この話は、ぜひこういうふうに撮ってほしい、と思うのである。

 『阿修羅のごとく』は1979年から80年にかけて、向田邦子脚本、和田勉演出でNHKで放映された。いまのホームドラマからきれいさっぱり抜け落ちているものを描きたい、それはなんだろう、という和田勉の問いかけに、向田邦子はこう答えたという。
 「それは、セックスね」
 なにも、実際にことに至るだけがそれではない、ということは、この作品を見ればよく分かる。四姉妹をめぐる、滑稽で、ほのかに悲しい人間喜劇。タイトルは、劇中、次女の夫がつぶやく「阿修羅だねえ。女は阿修羅だよ」というセリフに託されている。

監督:森田芳光
原作:向田邦子
出演:大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子、小林薫、板東三津五郎、桃井かおり、
中村獅童、八千草薫、仲代達矢
by shino_moon | 2005-05-03 23:25 | 映画(ア行) | Comments(0)


<< 鍵 向田邦子 >>