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オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(2013年)

ジャームッシュ、4年ぶりの新作は吸血鬼もの。

何百年も生き続ける吸血鬼を主人公にした物語は、必然的に時間を俯瞰することになる。100年前の偉大な作家が目の前に立っていたり、伝説の勇者が写真に映りこんだりするような遊びをちりばめることができる。こういう話が、私は大好きだ。

この映画は、ぜひ音楽ファンに観てもらいたい。音楽好きのジャームッシュらしい仕掛けがあちらこちらに散見されて、間違いなく楽しめると思う。

何百年も愛し合っている吸血鬼の恋人たちの名前がアダム(トム・ヒドルストン)とイヴ(ティルダ・スウィントン)というのも、人間を「ゾンビ」と呼ぶのも、効きすぎるぐらいシャレが効いている。そもそもアウトサイダーであるはずの吸血鬼が、さらに追い詰められるところが、この映画の現代性だろう。身を潜めるための「陰」がどんどん失われ、アダムが住んでいるのは、デトロイトの街の、人の住まない廃墟群の一画に建つ一軒家。吸血鬼にとっても居づらい時代なのだ。

でも、不便そうだけれど好きなものばかりに囲まれたアダムの暮らしは、文句なくうらやましい。それに、イヴの住むモロッコ・タンジールの夜の風景も、そこに住むマーロウ老人(ジョン・ハート)の佇まいも、魅力的でエレガントだ。

あとは、血を飲んだあと、吸血鬼たちが浮かべる至福の表情――首を後ろに傾けて目を閉じ、口を横にうっすらと開けると前歯が血で赤く染まり、口の端には牙がのぞいている――が、まるで欠伸をし終える直前の猫のような表情で、不覚にも癒されてしまったのが、なにともかんとも。


監督:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、ジェフリー・ライト
アントン・イェルチン ほか
by shino_moon | 2014-01-08 16:47 | 映画(ア行) | Comments(0)


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