このところぽつぽつと観ている映画が、いろいろと面白い。
書いておかないと忘れてしまうので、ちょっとずつかんたんに。
ネブラスカの消印のある「100万ドルの賞金が当たったので取りに来て下さい」といういかにもインチキな手紙を受け取ったウディ(ブルース・ダーン)は、誰からも相手にされなかったが、どうしても取りに行くといって聞かず、歩いてでもネブラスカまで行こうとしていた。次男のデビッド(ウィル・フォーテ)が見かねて、ウディを車に乗せ、ふたりでネブラスカを目指して出発する。
頑固だがちょっと惚けかけている老人と、サエない毎日を送っている息子のロードムービー。その途上で起こる出来事や出会いを通して、息子は知られざる父の姿を見出してゆく。
俗の極みのようなウディの妻(ジューン・スキッブ)のキャラクターがいいのと、ウディ以上に朦朧としているウディの兄、昔のウディの仕事仲間、かつてのウディの初恋の相手など、一癖以上ある人々の登場で、「なんだかいい話」という以上の余韻が残る。
なにより、ブルース・ダーンの「顔」を得た時点で、この映画は半分ぐらい成功している。ショットに入ってくるだけで見入ってしまう顔。表情を大きく動かすわけではないのに、喜怒哀楽が表出する顔。いやあ、好きだわ、あの顔。
それから、アメリカ中部の、モンタナ州からネブラスカ州に至る旅の風景も主役だ。何もない野原の中に突然小さな町が現れるあの感じ。入院してしまったウディに付き添うデビッドが、ベッドの傍らで迎える朝の、窓の感じ。主人公にとってはアメリカであり、旅先でもあることを、観客が同時体験できるショットだった。
かつて、アイオワからウィスコンシンまでトラクターで老人が旅をするディビッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』(1999年)という映画があったが、映画の肌合いは違えど、アメリカの風土を感じるという意味では共通するものを感じて、面白い。
ただひとつだけ。どうしてモノクロで撮ったのだろうか。カラーではいけなかったのだろうか。モノクロ映像にはあらかじめ「郷愁」が張り付いてしまう。そのことは、監督の狙いなのだろうか。モノクロでもいい。いや、すごくいいのだけれど、もしかしたら、それは映画にとっては損なことではないのかなあ、とふと思ったりする。
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ボブ・オデンカーク
ステイシー・キーチ、アンジェラ・マキューアン