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万引き家族(2018年)

是枝監督とはほんとうに相性が悪くて、何本か観た作品がほとんど心に響かなかったので、あまり本数を観ていない。『万引き家族』も安藤サクラが出ていたから観に行ったので、彼女が出ていなければ観なかったと思う。でも、期待していない分、フラットな気分で観ることができた。

で、この映画も例外ではなかった。書くことはこれだけで、これ以上書くと結局悪口になってしまう。なので、やめてもいいのだけれど、私なりに、どうして響かないのかを少しだけ考えて書いてみる(内容に触れているので、これから観る人は読まない方がいいと思います)。

是枝監督の映画は、物語の背景にわりと無頓着だ。大雑把と言ってもいい。『万引き家族』もそうで、この人たちが住んでいる家はどういう街にあるのか、ひとり暮らしのはずの老人の家にあれだけの人数が暮らしていて周囲の人は気づかないのか(私の住んでいる町は東京にあるけれど、古くから住んでいる人は、けっこう近所の家族構成を知っている)、定期的に訪問している民生委員はなんとなく変だと思わないのか、わりに同じ店で万引きして成功しているけれど怪しんでいる人はいないのか(これは、気づいている人がいたからまあいいとして)、ほんとうにいろいろと気になって仕方がない。

こうしたことは、「都会は他人に無関心だから」「役所は面倒なことに踏み込まないから」「みんな自分のことしか考えていないから」という前提をもってしたら、もちろん理解はできる。けれども、嘘っぽい。前提を踏まえてストーリーをつくると、それ以外の場所にはたどり着けない。ひとりぐらい「あれ?」と思う人がいてもいいんじゃないか。そういう人から生じる破綻もあるはずだ。世の中には、「前提」ではくくりきれないような、いろんな人がいる。

この映画の家族のあり方も、さほど不思議ではない。社会の中でうまく生きて行けず、行き場がない人たちがたどり着いたのがあの「家」で、彼らは、肩を寄せ合って、世間を欺くことによってなんとか生きている仲間なのだ。もちろん、寝食を共にしているから生まれる情愛も存在している。「疑似家族」の物語のひとつの典型に、いろいろな味付けをしているのがこの映画の「家族」で、テーマに比してその味付けがけっこう外連味たっぷりなところも、あまり好きではない。

書いてみると、こういうことになるのかな。もちろん、こうしたことは私の違和感にすぎない。

ただ、この映画には救いがあった。「家族」たちのあり方に疑問を抱く少年(城桧吏)と、彼の生きてゆく力を見いだした女(安藤サクラ)の関係、そして、少年に社会への扉を開いた商店の店主(柄本明)の役割だ。このラインの物語には、さすがに力がある。取調室での安藤サクラも、最後にリリー・フランキーとの決別を秘めながら振り返る少年も、本当に素晴らしい。これだけでも観に行った甲斐はある。

個々に素晴らしいシーンはほかにもある。松岡茉優と池松壮亮のほんのワンシーンの印象深さ。この映画では安藤サクラの陰に隠れている感があるけれど、松岡茉優もいいんだよな。

最後に。是枝監督の映画では、子役がほんとうに素晴らしい。この映画もそう。子役には台本を渡さず、口立てで演出をするそうで、それは子どもをよく知っているからできることなのだろう。けれども、子どもは飛び道具のようなもので、演技以前のもので観客を惹きつけてしまう。まったく文句を言う筋合いではないのだけれど、毎回子どもを使って映画をつくるのはなんか卑怯だと思うよ、監督。

監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、柄本明、樹木希林 ほか

by shino_moon | 2018-06-16 17:32 | 映画(マ行) | Comments(0)


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